国を守る事務官から、“人を守る起業家”へ――「命をつなぐお守り」omamolink(オマモリンク)
株式会社grigry 代表 石川 加奈子(いしかわ かなこ)
命を守るお守り型デバイスの開発
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「もし、あの夜に助けを呼べる手段があったなら」。omamolink(オマモリンク)は、そんな祈りから生まれた命を守るお守り型デバイスである。性被害・カスハラ・ストーカー被害、そして自宅での急変など、人が孤立する瞬間にSOSを発信し、録音・通知・見守り、さらには防犯ブザー機能を一体化した仕組みを実現した。 防犯グッズやアプリの多くが「もしものとき」専用であるのに対し、omamolink(オマモリンク)は日常的に持てる点が特徴だ。伝統的なお守りをモチーフに、軽量でデザイン性を重視。内符や推しの写真など、大切なものを中に入れて、自分仕様のお守りにカスタムして持ち歩ける。 開発を担う株式会社grigry(グリグリー)は、テクノロジーと文化の融合を掲げ、安心を身につける形で社会に届けている。
「大切な人を、二度とひとりにしない」
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事業の中心にあるのは、創業者・石川加奈子の明快な理念だ。「大切な人を、二度とひとりにしない」。この言葉には、彼女自身の原体験と祈りが込められている。 防犯、防災、医療、福祉――どの領域にも共通して流れるのは、「つながりの断絶」への恐れだ。石川は語る。「人は見守られていると感じるだけで、安心できる。けれど、その安心が途切れた瞬間に命を落とすことがある。テクノロジーで人と人の気づきを補完したい。」 その思想の根底には、国家の安全保障に携わった10年間の経験がある。国を守るための情報を扱ってきた彼女が、次に守ると決めたのは人そのものだった。
国家の事務官からスタートしたキャリア
1981年、千葉県習志野市に生まれる。早稲田大学法学部卒業後、国家事務官として勤務。約10年間にわたり、国家の安全と人々の安心を支える情報の最前線に立った。 2011年にはワシントンD.C.のシンクタンクに客員研究員として派遣され、アメリカ大統領選を通じて「開かれた意思決定」の文化に触れる。 だが帰国後、日本社会に残る閉鎖的な構造に違和感を覚えた。 「この国を本当に良くしたいなら、決定する立場になるか、意思決定者を動かせる力を持たなければ意味がない。」 そう痛感し、安定したキャリアを手放して再渡米。スタートアップシンクタンクで危機管理の研究と教育の現場を学んだ。
「利己」と「利他」が交わる場所に、志は宿る
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帰国後、フリーエージェントのコンサルタントとして働き社会を変える経営者たちと出会う。彼らは、利益を超えて社会の未来を見据えていた。 その姿に触発され、働きながらグロービス経営大学院でMBAを取得。 授業で出会った言葉が、石川の心に火をつけた。「利己と利他が交わるところに志(天命)がある」この瞬間、彼女の過去と現在がつながる。 高校・大学時代に受けた性被害の記憶。叫んでも助けが来ず、「証拠がない」と言われた悔しさ。「もし、あの時つながる仕組みがあったなら」「もし、声を残せていたなら」。自分を救えなかった過去(利己)と、未来の誰かを守る願い(利他)が重なった。 「この痛みを、誰かを守る力に変えよう。こうして、命を守るためのテクノロジーという事業構想が芽生える。
「守る」を、世界の共通言語に
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石川が描く未来は、単なる防犯デバイスの普及ではない。「守る」という行為を、文化とテクノロジーの両面から社会に定着させることだ。 omamolink(オマモリンク)は今、性被害・ハラスメント・高齢者の見守りなど、多領域への展開を見据えている。特に力を入れているのが、被害が起こる前に防ぐ予防的アプローチだ。 SOS発信や録音機能だけでなく、AIによる異常検知、家族・職場・地域コミュニティとの連携を視野に入れた拡張が進む。その発想の背景には、2019年に祖母と母を相次いで亡くした経験がある。 「母が家で倒れても、気づくことができなかった。もし日常の中でつながる仕組みがあれば、救えた命があったかもしれない。」omamolink(オマモリンク)は、防犯・見守り・健康管理を横断し、人と人を気づきで結ぶプラットフォームへと進化しつつある。 彼女のビジョンは明確だ。「性被害に遭う人を減らすことが目的ではない。被害が起こる前に守られる社会をつくること。」テクノロジーでつながりを再設計し、「守る」を世界の共通言語にする。それが、石川加奈子の使命である。