小中高生を対象に「起業家教育×留学体験」を掛け合わせた実践型プログラム──それが近藤英恵が主宰するジュニアビジネス留学だ。3泊4日の国内合宿から8泊9日の海外キャンプまで、英語プレゼンやビジネス企画を通して「自分の言葉で伝える」「自分の企画で動かす」ことを体験。子どもたちの自己効力感と行動力を育てている。講師は10〜20代の学生起業家、運営はママ講師が伴走。さらに修了生がメンターとして戻る循環型の仕組みを構築し、これまで国内外で11回開催・延べ316名が参加。英語を“学ぶ”のではなく、“挑戦を通じて使う”。その実践こそが、このプログラムの真髄である。
留学は目的ではなく、人生を動かす手段
近藤が掲げる理念は明快だ。「留学は目的ではなく手段」。海外へ行くこと自体が目的化している風潮に疑問を抱き、学ぶ場を「どこにあるか」ではなく「どう挑戦するか」へと再定義した。
不確実な時代に必要なのは、正解を覚える力ではなく、失敗を糧に再挑戦できる力。
彼女が目指すのは“優等生”を育てる教育ではなく、“挑戦者”を生み出す教育だ。
だからこそ、カリキュラムは英語力よりも行動力、学力よりも自己表現力を重視して設計されている。
英語が苦手だった母親が、世界で見つけた確信
もともと近藤自身は英語が苦手で、強いコンプレックスを抱えていた。
それでも学び続け、6カ国での留学を経て「異文化の中で自分が変わる感覚」をつかむ。
世界が一気に開けたその瞬間を体験した彼女は、「一人でも多くの子どもにその原体験を届けたい」と決意した。
出産後は8年間、専業主婦として家庭に専念。しかし、子どもの障がいやいじめをきっかけに、「親がずっと守れるわけではない。
ならば“生きる力”を与えたい」と覚悟を決める。
2012年、2歳と7歳の子どもを連れてフィリピン・セブ島へ親子留学。
現地では住み込みで働きながら、学校の設立・法人化・運営に携わり、教育現場の最前線で実務を積み上げた。
この4年間の経験が、「教育サービスの現場知」と「親の視点の運営」を両立させる力を育んだ。
帰国後は、ママ・赤ちゃん留学や親子留学専門校を立ち上げ、留学をより身近な選択肢へ広げた。
すべての原点には、母としての葛藤と、挑戦を通して得た確信がある。
“起業家を量産しない”教育
ジュニアビジネス留学の目的は、起業家を増やすことではない。
子どもたち一人ひとりが、自分の価値観で判断し、行動できる力を育むことだ。
そのために重視しているのは、等身大のロールモデルとの出会い。
講師を務める学生起業家たちは年齢も近く、失敗も成功もリアルに語る。
完璧ではない先輩の姿が、子どもたちに「自分もできるかもしれない」と火をつける。
実際に、3年間不登校だった中学生が「初めて自分の“好き”を語れた」と言い、海外留学へ挑戦。
小学6年生は自治体のプレゼン大会で受賞し、クラウドファンディングで地域グッズを販売。
高校生はギターピックの製造・販売を自ら構築し、月商104万円を達成した。
「休み時間は一緒に寝転んでゲームをする。
完璧じゃない先輩だからこそ、勇気が出る」子どもたちの“あこがれ”が“自分事”に変わる瞬間を、近藤は何度も見てきた。
共同生活という濃密な時間の中で、挑戦と失敗と成功をリアルに体感させる。
それが“生きる力”を根付かせるための最も確かな方法だと信じている。
越境する学びのエコシステムを世界へ
近藤が描く10年後のビジョンは、越境型の学びのエコシステムをつくることだ。
海外は自身のネットワークを持つ6カ国(アメリカ・オーストラリア・ニュージーランド・カナダ・フィリピン・マレーシア)へ拡大。
国内では合宿型を継続し、初挑戦のステップを整えたうえで、海外へと挑戦をつなげていく。
さらに、海外在住ファミリーを日本のキャンプに招くインバウンド型プログラムも構築中。
運営には卒業生メンターを積極的に迎え、世代を超えて学びが循環する仕組みを確立させている。
オンラインでは、『令和の虎』出演を機に開講したコースを通じて、世界中の小中高生がつながっている。
場所も国境も越えて、挑戦のエネルギーが連鎖する。
近藤の根底にあるのは、日本社会への危機感だ。
IMDの国際競争力ランキングで日本は30年間下降を続け、パスポート保有率も低い。
「挑戦する土壌がないからこそ、挑戦の場を増やしたい」。
失敗が致命傷にならない環境で、小さな成功体験を積み、自信を得る。
その繰り返しが次の挑戦を生む学びの循環をつくる。
「新しい挑戦から、人生の可能性を広げられる場を世界中に」 近藤英恵は今日も、目の前の一人に火を灯し続けている。
Profile
近藤 英恵(こんどう・はなえ)
HANA’S ACADEMIA代表/ジュニアビジネス留学創設者
6カ国での留学経験を経て、2012年に2歳と7歳の子どもを連れフィリピン・セブ島へ教育移住。現地で学校の設立・運営に携わり、延べ3,000人以上の親子留学を支援。帰国後、ママ・赤ちゃん留学事業や親子留学専門校を立ち上げ、独立後にジュニアビジネス留学を創設。国内外11回・延べ316名が参加。学生起業家×ママ講師×卒業生メンターの三層構造で挑戦を伴走し、「挑戦の場を増やし、子どもたちの生きる力と自信を育む」ことを使命とする教育起業家。